平和部の温泉旅行

19/22
前へ
/260ページ
次へ
  ──夜。 俺は夜空を眺めながら溜め息をついた。隣の結香も溜め息をついた。しかし、夜空は返事をしてくれない。……当たり前だ。  俺は、暇潰しにやっていたクロスワードを机に放り投げると、風呂へ向かった。  ほら、あるじゃないですか。日曜日の午後六時頃は、「明日はもう学校かぁ~」と無性に空しくなってしまうこと。  そう。明日でこの二泊三日の旅行は終わるのだ。  大浴場に足を運んだ俺は、湯に浸かりながらため息をついた。  今の時間帯が夕食時の為か、温泉は貸し切りに近い状態だった。  俺は温泉で歌を歌った。タイルの壁に歌声が反響してみごとな演出をする。……人は居ないから別に罪悪感も羞恥も無い。 ……しかし、寂しい。 「あぁ……つまらない……」  何だかんだ言って、やかましいとぼやいていた平和部も、慣れてしまえば『普通』に感じてしまうようだ。まったく『慣れ』とは恐ろしい……  ──気が付くと、俺は露天風呂の所まで降りてきていた。  残念ながら満月ではないが、俺を見下ろす冷たい月光は湯煙に霞んで七色に輝いてる。  脱衣所に戻って買い溜めしてきたコーヒー牛乳の一本をちびちび飲みながら夜空を見上げた。     女風呂の方から結香がよてよてと歩いてきて、露天風呂に浸かった。俺は構わずコーヒー牛乳を飲み続ける。 「…さいが君……」 「……ん?」  結香は冷めきっている両腕を、俺の首に絡ませた。  膨らみの少ない胸が、俺の背中に触れてたり触れてなかったりするが気にしない。正直に言うと、冷静な表情でコーヒー牛乳を飲み続けていられないくらいに心臓がバクバクしていたのだが……  水面に波紋を広げながら俺と結香はたたずんでいた。 「私…さいが君にとって……何…なのかな?」  しばらくの間、音が忘れ去られていた空間の中、結香は意味深な事を呟いた。  
/260ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加