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湯煙に霞む俺と結香。
結香はいつの間にか俺の腕の中で寝息をたてていた。ぬるま湯だから、長時間も割と平気だったし。
頬が熱を持っているせいか、ほんのり赤く染まっている。
結香の長い漆黒の髪を手櫛で整えると、血色の良くなった腕に触れた。フニフニしていて柔らかい。
「大切な幼馴染み……かぁ」
俺は、さっき結香に言った言葉を思い出していた。
「……にしても、結香は何を伝えたかったんだ?」
答えは今、腕の中で安らかに寝息をたてているのだが……
とりあえず、結香を眠りの世界から引っ張り戻すと、よろよろしながら冷たい階段を登っていった。
……二時間くらい入浴していた俺達は見事にのぼせていた。
──部屋に戻った茹でタコ状態の俺達を待っていたのは、数時間遅い夕食だった。
「お帰りなさい♪ 憎いわねぇ~このラブラブバカップル!!」
俺は、先輩の死語悪口を華麗に無視すると、皿にありついた。
「……む、無視するなぁぁ!!」
先輩の騒ぎ声が室内を反響した。とりあえず、寂しかったようだ。
俺は、鯛の刺身を箸で摘まむと、「ほら、あ~ん」と言って先輩にあげた。
「ん……美味しい♪」
先輩の騒ぎ声はピタリと止んだ。……扱い楽だな。
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