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下校中──
小玉高校へ伸びる地獄坂を自転車で流れるように下っていく。
向かい風に髪型を乱されてイライラしている青年の名は、天草 災禍(あまくさ さいか)。
冴えない・間抜け・怠け者の三拍子を欲しいままにしている典型的なダメ野郎。てか、俺。
俺は下り坂をブレーキもかけずに下っていく。これがまた快感で、止めるに止められないのが事実なのだが。……アドレナリンどくどくよ♪
俺は機嫌良さそうに口笛を奏でる。中学時代からお世話になっているオバチャリの車輪の接続部が悲鳴をあげた。
*
──緩やかなカーブを抜けて住宅街に入った時、一つの人影が俺の目の前に現れた。スピードが上がりすぎたオバチャリは、急には止まらない!!
「うわぁぁぁ!!」
「……ほえっ!?」
人影は放物線を描いてふっ飛んだ。肩まで伸びた黒髪がスローモーションで宙を舞う──
慌てる俺。微塵も動かない人影。摩擦で大きくすり減ったブレーキのゴムと、道路に残された二つのブレーキ痕。
未だに目撃者は居ないようだが……俺の表情は蒼白に凍り付いていく。
「……だ、大丈夫ですか?」
相手が大丈夫なわけ無いが、突然の事に頭がうまく回らない俺は、とりあえず声をかけてみた。
見た目から、路肩に倒れている被害者は女性のようだ。
「……っ…」
彼女は痛みに身をよじらすと、辛そうに立ち上がった。彼女は不機嫌そうに黒いワンピースの裾をはらう。
これは……裁判沙汰かもしれない……てか、絶対に裁判だろ。むしろ、理不尽な拷問とか?
彼女はこちらを睨むようにして威嚇してから、怒りを宿すように拳を固める。
「神様ごめんなさいごめんなさい!! どうか俺をお守りください!!」
目を閉じて懺悔を繰り返す俺。足元の影がふらりふらりと近寄ってくる。
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