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次の瞬間、彼女の一言に俺は呆然としてしまった。
「あれ? ……もしかして、貴方は僕の御主人様ですか?」
俺はこの瞬間ほど肝を冷やし、同時に安堵を覚え、頭上に大量の疑問符を浮かべた事は無かっただろう。
「問1,貴女は誰ですか?」
*
俺は走行不可能になった自転車を引きながら、天草家玄関前までたどり着いた。
にしても彼女。自転車の前輪が歪むほどの激突を真正面から受けて平気なのだろうか?
見たところ、俺の隣をケロッとした表情で付き歩いてるようだが……
とりあえず俺は、家の内壁に立て掛けた愛車に敬礼をすると家に入った。
「……御主人様?」
「ちょっと待っててくれ」
俺は彼女を玄関に上げて待たせると、通学カバンを片付けた。ところで……まず何を話そうか?
「あの……御主人様?」
「……あのねぇ…御主人様って呼ばれてもちょっと困るな……まず、呼ばれるような身分じゃないし、堅苦しいし……」
素のコメントを彼女に返す。俺に“御主人様”なんて呼称は酷く似合わない。
「俺の名前は、天草災禍だ。……さ・い・か!! ところで君の名前は?」
「僕の名前? 忘れてしまったの? 御主人様……」
彼女は俺の目をちら見した後、何かを口ごもって寂しそうにうつ向いた。
──俺はこの瞳を知っている?…ずぶ濡れになりながら寂しそうにうつ向くオッドアイ……
急に彼女は跳ねるように中庭へ駆け出すと、屋根の下の一角に三角座りした。そこには、黒い毛が所々に引っ付いてる色褪せたクッションが敷かれていた。
「僕が居なくなってもここに敷いておいてくれたんだね♪ 僕、嬉しいな」
彼女は太陽のように微笑んだ。思い出した。彼女の正体。
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