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「チェシャ猫。
あの…これっ、受け取って!」
そう言って、私は頬を朱色に染めながら、チェシャ猫にそれを差し出した。
にんまり顔の猫は、私の両掌に収まっている物に視線を注ぎ、しばし見つめている。
「コレ…」
ぽつりと呟いてから、静かに手を伸ばして、受け取った。
「僕らのアリス、君が望むなら」
もちろん、いつもの口癖も忘れずに。
そうして、チェシャ猫は不思議そうに笑いながら押し黙る。会話が途切れた。
わかってはいても、痛いほどわかってはいても、いざこの状況に置かれると、とても、切ない。
私は深い溜め息を吐き出した。
思った通りだ。チェシャ猫は、全く、理解していない。
期待しても無駄だという事は、百も承知だったけれど。
微塵の欠片であれ、心の奥底で眠る希望を、どうしても捨て切れなくて。
その一方で、胸に暗雲が立ち込め、暗闇を広げていく。
希望と、絶望。
これって、紙一重のような気がするのは、私だけ?
一人で苦悶する私に対して、チェシャ猫は、さらなる追い討ちをかけてくる。
「アリス、これは…美味しいのかい?」
うな垂れてしまったのは、言うまでもなく。
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