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泡の海から出されると、今度はジャバジャバとあったかい水をかけられた。水が苦手な僕だったけれど、暴れる事はしなかった。
だって‥お腹が減っていて抵抗する力が残っていなかったんだもん。
昨日の朝、兄弟達と魚の骨と野菜の切れ端を分け合って食べたきり、何も口にしていなかった。
『‥お腹すいたよぅ‥』
人間にむかって言ってみた。
でも人間は知らん顔で、今度は僕を、お日さまの匂いのする僕と同じ色の布でゴシゴシとこすった。
『きっと人間は僕の言葉がわからないんだ』
ゴシゴシするのを止めたのか、人間の手が僕から離れてどこかへ行った。
その隙に、布からモゾモゾと這い出た僕は、グゥーンと伸びをした後、ブルルッと体を震わせて水の雫を辺りに飛び散らせた。
『人間はどこに行ったんだろう?』
辺りをキョロキョロと見回してみると、後ろからゴォーっという音と一緒に、あったかい風が吹いてきた。
僕は驚いて逃げようとしたけど、また人間に掴まってしまい、その場に押さえ付けられちゃったんだ。
怖かったよ‥。だって本当に凄い音なんだ。どこからそんな音が聞こえてくるのかはわからなかったけど、でもあったかい風は気持ち良かったな。
僕は、あったかい風に吹かれながらウトウトしちゃった。
気が付くと風は止んでいて、僕の濡れていた毛が乾いてた。スンスンと体の匂いを嗅いでみる。
『なんだかいい匂い』
僕の体からは、お花のような、そうじゃないような…不思議な匂いがしてた。初めて嗅いだ匂いだったよ。
…グゥ…キュルル…
甘い香りに反応して、お腹が鳴っちゃった。
『僕、このままじゃ死んじゃう…。ご飯食べたいな……お腹すいたよぅ…』
人間がご飯をくれるわけないのはわかってたけど、兄さんがよく人間の住みかから食べ物を持って来てたから、もしかすると頼んだらくれるかもって思って、僕は何度も人間にお願いした。顔はやっぱり遠いから、人間の足に体をすり寄せてね。
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