10人が本棚に入れています
本棚に追加
「いたたたっ! なんでまぶたを引っ張る!」
「太子こそソロモンを押し付けないでください!」
「お前が飼うって言うまで私は押し付け続けるぞ!」
お互い一歩もひかない激戦が続くかと思ったが、太子が「もういや~~~~」とソロモンを離したので、三分で終わった。
「うう……、負けてしまった。もうソロモンは諦めるしかないか……」
ベロンベロンになったまぶたをヒラヒラさせながら、ソロモンを撫でる太子。
心がチクリと痛んだが妹子だったが、自分の生活を犠牲にできないので目をそむけた。
「あれ、二人とも何をしてらっしゃるんですか?」
少し気まずい雰囲気の二人に声をかけてきたのは太子の愛馬を育てている舎人の調子丸。
「あ、調子丸君」
気づいた妹子が返事をする。太子はソロモンに向かって何かブツブツ呟いているので、気づいていないようだ。
「太子が何か変ですね」
「朝廷内で犬を飼えないから落ち込んでるんだ」
「なるほど」
二人で太子を励まそうとするが、調子丸が急にお腹が痛くなりだしたと言い、妹子はそんな調子丸を心配していたため、誰も太子を励まさなかった。
「あ、今思ったんだけど、調子丸君のところでソロモン飼えないかな」
なんとかお腹痛が治ってきた調子丸に妹子が提案した。
「あぁ、たぶん飼えると思いますよ」
さっきよりだいぶ落ち着いたらしく、返事をする。
「えっ! 調子丸、ソロモンを預けていいのか!?」
返事を聞いて、顔をガバッとあげて調子丸の顔をみつめる太子。その目はキラキラしていた。
「黒駒も飼わせていただいてますし、問題ないかと」
その言葉を聞いた瞬間、ソロモンと抱き合う。少しソロモンの顔が嫌がっているようにみえるのは、たぶん気のせいではないだろう。
「良かったじゃないですか太子。これでいつでもソロモンに会えますね」
「ああ。毎日遊びにいくからな、ソロモン★」
こうして、無事ソロモンの飼い手もみつかり、満足した太子だった。
次の日から太子の日課にソロモンに会いにいくのが追加された。
そして、一週間後。
「ねぇ、妹子! みてみて! また可愛い仔犬がいたのぉ」
「またですか……」
いつの間にか調子丸の家は、犬小屋になっていったという……。
聖徳太子と仔犬
END
最初のコメントを投稿しよう!