8人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
俺たち一行はあの女の子めがけてどやどやと迫っていく。むさくるしい男集団におっかけられて、あの女の子も中々可哀想に思えてきた。
「やぁ、半魚ちゃん。またあったね」
花形はもう、無性にひっぱたくかブン殴りたくなる。きっと、最初の女の子にもこう話したのだろう。
わなわな震える拳を必死に押さえ付けた。そんな俺の気持ちをよそに大木が脳天にげんこつをかます。
「ああ、さっきの人たちですね。大丈夫だったんですか?」
「ははは、俺は平気さ。だってビショップだもん」
多分何かと間違えているというところまでは分かったが、何と間違えているのかが分からなかった。盤の上を斜めに進む僧侶と、花形の丈夫さがどう関係しているのだろうか。常人には知り得ない、彼独自の思考回路で綴られる言葉は、本当に不思議で難解だ。
「ビショップ。チェスをなさるんですか?」
「何、知恵州? 豊洲の親戚?」
殴る殴らないではなく、今すぐ回れ右して帰りたくなって来た。俺はこの女の子に気に入られたい訳ではないが、このままでは、俺の品位まで疑われかねない。
「あ、そういや、まだ名前聞いてなかったっけ。俺さ花形迅っていうんだけど、君は?」
「魚住です。魚住潤といいます」
「ボス猿……?」
半魚だのボス猿などと、花形は本当に馬鹿を通り越して致命的なレベルまで到達している。初対面の人にこれだから、あの様な結果になるのだ。
「花形迅さんですか。へぇ、カッコいい名前ですね」
失礼なもの言いなど、まるで聞いていなかったかのような笑顔で答える。しかも、花形を褒めたときたものだ。
俺たちはただただ唖然とするばかり。そんな俺たちをよそに、花形と潤ちゃんは仲良く会話の花を咲かせていた。
そのおり。
「魚住!」
その場に野太い声が響く。
すると、
「あ、はい! 今すぐ!」
潤ちゃんは背後からの声に踵を返し、あのよく通る声で答えた。
「すみません。キャプテンが読んでいるので、わたし行きます。失礼します」
俺たちに丁寧なお辞儀をして、潤ちゃんは声のした報告に向かって走りさる。
花形はそんな潤ちゃんの背中を、いつまでもしげしげといやらしい目で見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!