奇跡2

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 俺たち一行はあの女の子めがけてどやどやと迫っていく。むさくるしい男集団におっかけられて、あの女の子も中々可哀想に思えてきた。 「やぁ、半魚ちゃん。またあったね」  花形はもう、無性にひっぱたくかブン殴りたくなる。きっと、最初の女の子にもこう話したのだろう。  わなわな震える拳を必死に押さえ付けた。そんな俺の気持ちをよそに大木が脳天にげんこつをかます。 「ああ、さっきの人たちですね。大丈夫だったんですか?」 「ははは、俺は平気さ。だってビショップだもん」  多分何かと間違えているというところまでは分かったが、何と間違えているのかが分からなかった。盤の上を斜めに進む僧侶と、花形の丈夫さがどう関係しているのだろうか。常人には知り得ない、彼独自の思考回路で綴られる言葉は、本当に不思議で難解だ。 「ビショップ。チェスをなさるんですか?」 「何、知恵州? 豊洲の親戚?」  殴る殴らないではなく、今すぐ回れ右して帰りたくなって来た。俺はこの女の子に気に入られたい訳ではないが、このままでは、俺の品位まで疑われかねない。 「あ、そういや、まだ名前聞いてなかったっけ。俺さ花形迅っていうんだけど、君は?」 「魚住です。魚住潤といいます」 「ボス猿……?」  半魚だのボス猿などと、花形は本当に馬鹿を通り越して致命的なレベルまで到達している。初対面の人にこれだから、あの様な結果になるのだ。 「花形迅さんですか。へぇ、カッコいい名前ですね」  失礼なもの言いなど、まるで聞いていなかったかのような笑顔で答える。しかも、花形を褒めたときたものだ。  俺たちはただただ唖然とするばかり。そんな俺たちをよそに、花形と潤ちゃんは仲良く会話の花を咲かせていた。  そのおり。 「魚住!」  その場に野太い声が響く。  すると、 「あ、はい! 今すぐ!」  潤ちゃんは背後からの声に踵を返し、あのよく通る声で答えた。 「すみません。キャプテンが読んでいるので、わたし行きます。失礼します」  俺たちに丁寧なお辞儀をして、潤ちゃんは声のした報告に向かって走りさる。  花形はそんな潤ちゃんの背中を、いつまでもしげしげといやらしい目で見ていた。
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