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奇跡2
花形が落書きをおとして帰って来た。だが、油性マジックは思いの他強く、うっすらと跡が残っている。
「なあ、あの女の子は?」
花形が自分の額をごしごしと擦りながら聞いた。
俺が答えようとしたが、大木が答える。
「どっかいっちゃったよ」
「そうか。まあ、しかたないな。苺一円って言うし」
恐らく、『一期一会』のことをいったのだろう。一生に一度だけある機会というのが本来の意味で、使い方は間違いではなかった。しかし、肝心の言葉そのものを間違えている。多分、苺が一円で売られているのは、一生に一度しかない、と間違って覚えたのだろう。
と、そんな中。花形は先ほどの女の子を見つけようと、海岸はおろか周辺の街にまで目を走らせる。この熱心さと粘り強さを少しは野球に回して欲しい。
「どこかな、俺の傷害の半魚は」
多分『生涯の伴侶』と間違えている。これでは、怪我をした化け物だ。バイオハザードの世界である。
俺が花形に心の中で突っ込みを入れていると、花形は例の女の子を見つけたようだ。ひときわ下品な声を上げて、その場から走りさる。
走りさるとは言っても、絶望的な足の遅さを誇る迅くんは、のたのたと不格好なスキップをするようにうごいている。
俺たちは、気だるさとかったるさをお供にして、花形の付き人のようにぐずぐずと歩き出した。
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