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「すまないな、魔女。最期まで苦労をかける」
異質な空気を纏う女に、座ったままの男は頭を下げる。
「いえいえ、気にしないで下さい~。この世界でのこの儀式は私にとっても意義のあるものです」
コロコロと笑いながら、女は不思議なリズムで床をかかとで鳴らす。
「カズハ、君は優しき者と共に。アル、君は挫けぬ意志を持つ者と共に。サラ、君は気高き誇りを持つ者と共に。それぞれ私の魔力と同じ性質を持つ者と共に私のやり残した事をやってくれ」
男は笑っているが、三人は拳を握りしめている。
――自分たちは生きるが、大切な人が死ぬ。これほど歯痒い事はない。
「さて、そろそろ完成ですよ。あなたがたは魔導書となり主を待つ。グリさんは未来へと自らの魔力を託す。うふふっ、ここまで大掛かりな時空術式は久しぶりです」
そして魔女は、術式を発動させた。
それは、世界でもただ一人……いや、あらゆる時間空間次元でも彼女、『桜坂の魔女』と呼ばれる者にしか出来ない芸当であった。
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