鬼才と謳われた少年

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 ――暗闇。それが記憶の始まり。  痛い。体中の痛みで目を覚ます。  ギィ、ギィと金属どうしが擦れ合う音が耳に入る。手足が動かない。  天井からおりた鎖は両手の、床から上る鎖は両足の自由を奪っていた。  痛みと空腹で頭が空になって……。  聞こえる。  (皇蔵様、まさか……死んだ?)  まさか。死ぬ訳無い。痛いだけ。  “意思”の主に安堵を与えてやろうとゆっくりと顔をあげる。  ああ、これで打たれたんだ。  長い紐――黒くて、柄は紐ではなく棒になっている。それを持った男が、目の前に立っていた。  (いくら、五十嵐始まって以来の天才児と言われていても、これ以上は、もう無理だよな。でも、やらないと私が旦那様に……)  聞こえる。頭に入ってくる。  「良い、打て。平気だ」    俺は言う。知っていたからだ。この男が言う“旦那様”の恐ろしさを。  簡単な事。“旦那様”は俺の父親だから。  
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