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そんなやりとりを何度か繰り返した後、あやはなんの前触れもなくすっくと立ち上がり、皇士郎の手をぎゅっと握った。
「あっちー。いいにょいよ」
そして今度は白い花が咲く庭木を指差して、ぐいっと引っ張った。
「次は、じんちょうげか。ああ、いい匂いだ」
「ちんちょーげえ、いいにょい」
「そうとも言う」
やっぱり皇士郎は引っ張られるままに、ついていく。
とてっとてっとある意味軽快なリズムを刻む足取りに合わせて、栗色の柔らかそうな髪が踊る。
ジンチョウゲを見上げたあやの瞳は、それが宝石だといわれれば簡単に納得してしまいそうなほど澄んだ色で、きらきらしていた。
「ちんちょーげえ……」
「おまえの母はいったいどこで油を売っているんだかな」
皇士郎もあやの視線に重ねるように、手まりのような花を見つめる。
「はは?」
あやは小首を傾げる。
「母上だ」
「ははうえ! ははうえどこ?」
「さあな。すぐ戻ると言っていたが」
「もどるの? ほんと?」
「真理は嘘をつかんだろう」
あやは、ぱちり、とまばたきをした。
「まり! まりすきよ。まりもあやすきよ。いっぱい遊んでくれうよ。ねーえ、こうたん、ははうえ……」
ん、と皇士郎があやに視線を落とすと、俯いて、足をもじもじしていた。
「……どこ?」
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