7063人が本棚に入れています
本棚に追加
目に前に微笑む零の顔があって、衝撃のあと零の顔以外がまた反転した。
平衡感覚があやふやになったところに、顔の横に文献がバサバサと落ちてきて、自分の上に零が乗っているとわかった。
それがわかったとたん、急に全身に重みを感じる。この子はこんなに重かっただろうか。
「れ、零ちゃん、重い……」
「会いたかったぞ、美智子」
日に日に男らしい顔つきになっていく零が、鼻同士がくっつきそうな距離で目を細める。
「あ、会いたかったって、零ちゃん。つい3日前に会ったばかりでしょ」
「3日間も会っていない」
「そんなこと言ったってしかたないじゃない。そう毎日会えないわ」
「毎日会いに来ればいい」
「あのねえ。零ちゃんそろそろどいて。こんなところ見られたら――」
もぞもぞ動く彼女を制すように腰を抱く腕に力を込めて、
「少し黙っていてくれ」
零は、彼女の首に顔をうずめた。
「ちょ、零ちゃん!?」
「黙れって」
「やめて! お願いだからやめて! こんなこと、鷹遠くんに申し訳が立たないわ!」
「鷹遠……?」
ぞくりとする低い声だった。怒りが満ちた声色とは裏腹、顔を上げた零の瞳は切なげに揺れていた。
「そうよ。私は、今、鷹遠くんの妻なのよ。私を受け入れてくれた鷹遠くんに顔向けできない……」
零はギリッと歯噛みして顔を背け、彼女から離れた。
最初のコメントを投稿しよう!