名も無き花

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   チラ、と視界の隅に引っかかった。  獅ノ介は、一之瀬従者――ふたばとして、美化点検をしていた。  小説に出てくるような意地悪い姑みたいで嫌だが、仕事だからしかたない。この島にはもっともっと嫌な仕事が山ほどある。  というか、嫌な仕事しかない。  そもそも仕事は嫌いだし、楽しいなんて思ったことは一度もないし、などと考えながら、掃除が行き届いていない箇所よりも、サボるに最適な場所を探しているときだった。  ――視界の隅に、いやぁあなモノが引っかかったのは。  獅ノ介であっても意識すれば認識できるが、そうでなければ素通りしてしまう、あってないような存在感がそこにあった。  そんな最大限まで希釈された存在は、獅ノ介が第三候補として挙げながらも、今日は零くんがいるからなー、と却下しようとしていた場所、蔵の影と一体化している。  脱力を伴う苛立ちが、むくむくと大きくなる。  毎度毎度あんのバカは。  もう面倒だから、いっそ勢いあまったふりして殺っちゃおうか。  あーでも、言ってもやつは第三位だし、上からなんやかんや文句言われ――ねーなっ!   なんつうかもう父上と零くんから感謝状きちゃうなコレ!
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