名も無き花

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 鷹遠は、ふ、と笑って、ワルサーPPKを獅ノ介の顎から外した。 「ナマったなァ、しのチャン」  言われなくてもわかってる、を視線に込めて、獅ノ介も小太刀を首筋から離した。 「おー、こわ」 「お前は変わらないな。もちろん悪い意味で」  獅ノ介が背中に小太刀をしまうのを興味深そうに見守って、 「ん」鷹遠は懐にワルサーPPKを差し込んだ。「俺ァ、生涯現役だから」 「一生撃てるのかよ」  鷹遠は、にっと笑い、手首で首筋を拭った。手首についた血を舐める。 「撃てるさ。一発でも外したら二発目はココって」こめかみをつついた。「決めてんだ」 「じゃあ、さっさと外せ」  鼻で笑って、獅ノ介は髪をとめていたかんざしを抜いた。  すとん、と落ちた艶やかな黒髪は、獅ノ介が首を振っただけで、巻とめていたこと自体なかったかのように、まっすぐ背中にまとまる。 「冷てェなァ」  不機嫌な獅ノ介とは対照的に、鷹遠はどこか嬉しそうだ。そこが、よけいに獅ノ介の癇に障る。 「綺麗な髪だな」 「1ミクロンも嬉しくない。で、おまえはどうしてここにいるんだ」 「だーから門番が――」 「茶化すな。なにが目的かと問うているのだ。答えよ、三代橋が当主、鷹遠」  空気が、ぎゅっと、締まった。  鷹遠の目がゆっくりと細くなる。口元がかすかに笑った。
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