名も無き花

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  「……遅い」  ぽつり、呟いた声は、なんだかもう色々限界に達していた。 「こうたん!」あやが満面の笑みを皇士郎に向ける。「あげゆ!」  差し出された小さな手のひらは真っ黒で、その上には泥団子が乗せられていた。  はっきり言っていらない。 「あげゆの!」  そう目を三角にされても、ぐいと突きつけられても、あやがどんなに可愛くてもいらないものはいらない。  が、いらないとも言えず、じっと泥まみれの手のひらを見つめていれば、 「こうたん! あげゆのぉ……」  あやの目にみるみる涙がたまっていく。 「わ、わかったわかった! 頂くとする! ありがとうあや!」  慌ててそれをつまみ上げると、あやは手を叩いて喜び、しゃがんだまますり寄ってくる。  小さな身体を皇士郎にぴたりとくっつけて、あやはころんと丸い瞳で上目づかいに見上げた。  思わず、う、と身を引いてしまいそうなほど可愛い――その口から衝撃の一言が飛び出す。 「おあがりなさあい」 「は?」  皇士郎の反応はお構いなしに、あやは、にっこり笑い、 「たーべーてっ」 「ハァアッ!?」  殺す気か!
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