名も無き花

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「あ、あや、これは食い物ではない。これは泥だ。いいか、あや。泥は食えない。 なぜなら土壌には、ウエルシュ菌、ボツリヌス菌、セレウス菌など害ある細菌がいてだな、中でもボツリヌス菌は暗殺で使えるくらい――」  と全身全霊で泥の危険性を説いてみても、 「ちちうえは食べうよ!」 「嘘だろっ!?」  てな具合に信じられないひとことで一蹴されてしまう。  それどころか、あやは、小脇にある泥団子の山からひとつひっ掴み、 「あーっんっ」  と、しゃにむに食べさせようとしてくる。さすが見事な怖いもの知らずっぷりである。  待てあや、あーんしなさぁい、そうだ向こうに面白そうなも、こうたんあーんでしょ、という応酬の末、皇士郎のほうが泣きそうになったころ、 「兄上ぇえええええっ!」  という奇声が部屋の中から聞こえてきた。今更だが、皇士郎とあやは、庭に出ている。 「慶士郎!?」  と振り向く間もなく、皇士郎の身体に衝撃が走った。抱きつ――体当たりされたのだ。 「っつう……」 「あにうえぇぇ……」 「慶ちゃん! 履物もはかずお外に出ちゃだめでしょ!」  と縁側で腰に手を当てて肩を怒らせているのは、ぼたんだ。 「だめえ! こうたんはあやの! けいたんどいてぇえええ」 「寄るなばっちい! ぼくの着物でふくなぁあああ!」 「慶ちゃん駄目だったらぁああああん」  ……だれか助けてくれ。
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