7063人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あや、これは食い物ではない。これは泥だ。いいか、あや。泥は食えない。
なぜなら土壌には、ウエルシュ菌、ボツリヌス菌、セレウス菌など害ある細菌がいてだな、中でもボツリヌス菌は暗殺で使えるくらい――」
と全身全霊で泥の危険性を説いてみても、
「ちちうえは食べうよ!」
「嘘だろっ!?」
てな具合に信じられないひとことで一蹴されてしまう。
それどころか、あやは、小脇にある泥団子の山からひとつひっ掴み、
「あーっんっ」
と、しゃにむに食べさせようとしてくる。さすが見事な怖いもの知らずっぷりである。
待てあや、あーんしなさぁい、そうだ向こうに面白そうなも、こうたんあーんでしょ、という応酬の末、皇士郎のほうが泣きそうになったころ、
「兄上ぇえええええっ!」
という奇声が部屋の中から聞こえてきた。今更だが、皇士郎とあやは、庭に出ている。
「慶士郎!?」
と振り向く間もなく、皇士郎の身体に衝撃が走った。抱きつ――体当たりされたのだ。
「っつう……」
「あにうえぇぇ……」
「慶ちゃん! 履物もはかずお外に出ちゃだめでしょ!」
と縁側で腰に手を当てて肩を怒らせているのは、ぼたんだ。
「だめえ! こうたんはあやの! けいたんどいてぇえええ」
「寄るなばっちい! ぼくの着物でふくなぁあああ!」
「慶ちゃん駄目だったらぁああああん」
……だれか助けてくれ。
最初のコメントを投稿しよう!