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皇士郎の身体が、土むき出しの地面に激しい音を立てて落ち、30センチほど滑って庭石に背中がぶつかって止まった。
誰も動けない中で、皇士郎の苦しそうな咳が続く。
「や……」いっ、と、あやの喉がなる。「わぁああああああん」
背中を丸めて咳を繰り返す皇士郎のもとに駆け寄ろうとしたあやに、
「手を貸すな」
泣き止んで縮み上がるほど、低く恐ろしい声が届いた。
「自分で立て、皇士郎。待たせるな。また殴られたいか」
動けないでいる皇士郎に歩み寄ろうとする零の前に、
「いい加減にして! いくらなんでもやりすぎよ!」
彼女が立ちはだかった。
「どけ」
「いやよ! 皇ちゃんはまだほんのこどもじゃない! 零ちゃん、どうかしてるわ!」
「口を出すな」彼女の横をすっと通り抜ける。「これは俺たちの領分だ」
不規則な呼吸を繰り返す皇士郎を見下ろして、
「自分の足で立て」もう一度言った。「どうして殴られたかわかるか」
皇士郎は震える手で地面を掴んで、土をきつく握った。膝を地面にこすりつけるように立てる。
「庭に出るなと言ったはずだ。垣根の向こうは、堀を挟んで、もう外だ。いつなんどき弾や刃が飛んで来るかわからんのだぞ」
全身を震わせて皇士郎は立ち上がった。零は地面に膝をついて、皇士郎の顔を覗き込む。
「しかもおまえは、あやまで連れ出した。殴られただけで立つのがやっとのおまえが、あやを守れるのか。守り、己が無事でいられるとと断言できるのか。おまえの身体が傷つけば、傷つくものがいることを心得よ」
皇士郎は俯いて唇を噛み締める。まだ小さな身体の両脇できつく握られた拳には着物が食い込んでいた。
「わかったら返事をせんかァア! また殴られたい――」
「だめえっ! こうたんいじめないでぇえ」
振りかぶった腕の前に、あやが手を広げて立ちはだかった。
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