名も無き花

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「おっ、と」  後ろから、零の手首をつかんだ。 「零チャン、ちょっとタンマ」  零が振り返る。 「鷹遠……」 「ちちうえぇぇ……」  見上げるあやの目にぶわっと涙があふれた。 「よーしよし、怖かったなァ」言いながら、零の背後から手を伸ばし、あやを抱き上げる。「零チャンの前に出るなんて、あやは度胸あるなァ」  父上だったらチビっちまうぜェ、と、しがみつくあやの頭を撫で、 「さ、続けて続けて」その手を前に伸ばして、皇士郎を指ししめす。「……できるならな」  零が皇士郎に視線を戻すと、 「えっく、皇ちゃんを許してぇ……ぼたんが、ぼたんがお庭に出てって言ったのぉ……」 「兄上ぇえええ……ぼ、ぼくもお願いしました……紙ひこーきがとんでっちゃったからぁぁ……」  震えながら皇士郎をかばって泣きじゃくるぼたんと慶士郎がいた。 「おまえたち……」  と、振り上げた手をゆっくりと下ろす皇士郎に背を向けた鷹遠は、 「あやは、旦那様の前に出ちゃうくらい皇士郎が好きか」 「しゅきよ……うくっ、だいしゅきよ……」 「妬けるねェ。どうしてそんなに好きなんだい」 「やさしいのっ、いっぱい遊んでくれうのっ、こうたんとってもやさしいのお……」 「そうかそうか。皇士郎が優しいから守りたくなる――んだってよ。みんなが守ってやりたくなるような優しい子に育ってよかったな、零チャン」
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