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「ね? 零ちゃん」
いつの間にか零の隣にいた。彼女は、零の羽織りの裾を引っ張って、まっすぐな目で零を見ていた。
「寂しいでしょ? 口出さないで、なんてさ」
零は、ドキリとした表情を顔に貼り付けて、じっと彼女の視線を受け止めていた。
「そういうの、やめようよ。家族なんだよ」
「かぞく……」
19歳になったばかりの若すぎる父親は、消え入りそうな声でつぶやく。
「そ。家族」にっこりと笑う。「零ちゃんと私と、皇ちゃんとぼたんちゃんと慶ちゃん。鷹遠くんもあやも、このちゃんも。……仕方ないからしのちゃんもいれてあげる」
「仕方ないからって……」
と、顔面をひきつらせる獅ノ介に、彼女は、あははと声を上げた。
「嘘だよ。しのちゃんも大事な家族。それだけじゃないんだぜェ」
鷹遠の声真似をして、チチチと舌を鳴らした。
「いつかね、いつか。この島全体が大きな家族になればいいと思うの。ううん、私がしてみせる」
彼女はぐうっと伸びをした。
「こどもたちが、この島に生まれてよかったって思えるような島にしてみせるよ」
「真理! このゴミはなんだ」
慶士郎とぼたんが運んできたものを指さして、皇士郎が彼女を呼ぶ。
「ゴミって何よ! 失礼ね! 大事な大事な材料じゃないの」
「どこからどう見たって屋敷の増築で出た廃材だろうが! 俺の部屋にゴミを持ってくるな!」
「ほら、零ちゃんとふたばちゃんもこっちこっち! 鷹遠くんもほら!」
彼女がみんなを呼ぶ。
「これで何をするんだ」
零が彼女の肩に手をおいて、庭に転がっている木材を覗き込んだ。
彼女は、花が咲き誇るような満面の笑みで振り返る。
「みんなでブランコつくるのよ!」
あと数週間で、かすみが3歳になろうとしている。
了
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