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「愛してる」 「おいそれと愛の言葉を吐く軽薄な男は嫌いだね」 「相変わらず手厳しいな。だが、そこも愛してる」 「触らないでおくれよ。あんたは、あんたに人生を捨てた哀れな女にそれを言ってやるべきだ」 「いつも言っているさ。貞淑で従順なあれはあれで可愛い。だが、哀しいかな男は手に入らないもののほうが愛おしい」 「言ってな。あんたは、殺し屋としても島主としても最高だが、男としちゃ最低だ」 「男は最低な生き物だ」 「よくわかってるじゃないか。だったらその汚らわしい手で触れないでおくれ」 「おまえが欲しい」 「これだから、すべてを手に入れた男は嫌いだよ。なんでも自分の手に入ると思っていやがる」 「事実、欲しなくてもすべて手に入った」 「あたしが愛するのは、これからあたしに殺される哀れな男だけさ」 「おまえにだったら殺されてもいい」 「背中も見せないでよく言うよ。いざとなったら、あんたはあたしをあっさり殺す」 「ああ、間違いない。俺が殺されたら、おまえも殺される。だったら、俺がおまえを殺そう」 「ごめんだね。あたしは長生きするって決めてるんだ」 「妻よりも、か?」 「…………」 「あたしは枕だ」「ああ、最高の枕だ」 「枕はこれから殺す男しか愛さない」 「愛してる」 「耳にタコができるよ」  愛してる。  だから、愛させない。  愛さない。  世にも美しい菊の花。   了
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