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視界が赤く染まった。
激しい怒りと悲しみで赤く染まると知った。
視界は世界だ。だから、このとき、俺の世界は赤く染まった。
絶望が、赤く染め上げた。
夜遅くまで塾で必死に必死に勉強して、有名私立小学校で一番をとった。
なんのため?
決まってるでしょ。お母さん、アンタのためだよ。わかりきったこときくんじゃねえよ、くそが。
――ねえ、なのにどうして。
アンタが政治家一族に嫁いだのは、俺のせいじゃないでしょ?
だけどさ、ほら、アンタが自分の血筋に負い目感じてんのわかってたから、理不尽さに目をつぶって勉強してたんだ。
俺の出来ってやつがよければ、アンタもちょっとは、自分に自信が持てるだろうと思って。
親父がほとんど帰ってこないこの家で、俺の生きる術は、アンタに愛されることだけだった。
だけど、アンタが愛したのは、俺じゃなく、親父の秘書だった。
勉強のしすぎか、頭がぐるぐるして破裂しそうに痛くて、ついでに腹も痛くなって、塾を早退して這うように家に帰ったとき、アンタなにしてた?
親父の秘書とセックスしてたよね。
俺、あの瞬間から、今の今まで、何も忘れられないんだ。
一秒たりとも、忘れられないんだ。
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