ファンク!

7/73

7063人が本棚に入れています
本棚に追加
/302ページ
 まるで。  まるで、ずっと昔から俺の場所がここに用意されていたかのようだった。  初対面で怪しいナリ(お坊っちゃん小学校の制服来てこの時間、こんな場所にいるのは怪しすぎる)の俺に根ほり葉ほり聞いてくるやつは誰もいなかった。  この場所で必要なのはファーストネームだけで、住んでる場所も、親の職業も、学校名も、苗字と年齢さえいらなかった。  薫は自分の苗字を、ヒデは住んでる場所を、その場にいた大抵のやつが親の職業を言いたくなかったからだったんだなーって今になって思うけど。  空き缶と吸殻とゲロと蛾の路地に、俺が普段学校でしているよりずっと明るい話題が咲いていた。  その合間合間に、タイミングを図ったようにおっかないニイチャンやらネエチャンが来て、ジュースを置いていったり、俺たちの頭をひとなでしていったりする。  繁華街の電気が半分ぐらいになったころ、ひとり減りふたり減り、みんな思い思いに帰って行った。  ついには、俺と金髪の薫、ふたりだけになり、 「おまえ、帰んねえの?」  って、薫は、あくびを噛み殺す。  何も答えられないでいると、薫は興味なさそうな声で、ふうん、と言った。。  車がゆっくり通っていった。ライトが薫の顔を照らす。深い緑色の目が俺を見ていた。 「帰る場所ないんだったら、うちくれば」  普段は、もっと早く帰るお前が最後まで残ってたのは、俺のためだったんだよな。
/302ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7063人が本棚に入れています
本棚に追加