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薫ん家は、なんつーか、カルチャーショックだった。
ボロいのは、古い旅館だか料亭だかを改装したウチも一緒だからいいとして、まあ、そこそこデカい家だなーって思ったら、部屋が家だった。
アパートとかいうシロモノで、薫の家はその2階の一部屋だけ。
2LDKって、アイツらん中じゃかなりいい方の暮らしって今はわかるけど、テレビも映画も見たことなかったあの頃の俺は、マジ度肝抜いたよね。
アパートとapartmentって違っ……あれ? イメージが……明治? 大正? あ、高級長屋か! って感じでさ。
「なにやってんの。早く来いよ」
手すりのペンキがベロベロに剥がれた外階段で、薫が振り返った。瞬間、きったねーそれが異世界に通じる素敵階段に見えた。
「あ、うん!」
追いかけてバタバタ駆け上がると、
「寝てる家もあんだから、静かにしろよ」
って、かっこよく(←ここ重要)眉をひそめながら、一室の前で立ち止まって、ポッケをガサガサやる。
取り出したのは何もついてない裸の鍵で、ガリガリ鍵穴に差し込んだ瞬間、ベージュ色の眉がヒクっとした。
同時に、俺はビクっとした。
いきなり。
「っざけんな! 俺がいないときは鍵閉めろっつってんだろうが、んのっクソババアアッ!!」
ドアが外れんじゃねーかって勢いでドアを開けながら、薫が怒鳴った。
また同時に、中からなにかがふっ飛んできた。廊下の柵を越え、階下に落ち――グアッゴンッ!! ォオンォオン……。
「んな遅くまでどこほっつき歩ってんだボケ! 夜出歩くなっつってんだろうがっ、んのっクソガキィイッ!!」
静かにって……あー、うん。
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