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あったかいご飯だった。ちょっとしょっぱいけど、あったかい味がした。
「た、たすくくん……」
きらたんサンの箸がピタリと止まった。
夜、誰かと食べるのは、どれくらいぶりだろう。
毎晩塾で帰りが遅いから、今日もひとり、長いテーブルの隅っこで、一食いくらするのかわからない完璧な食事をもそもそ食べるはずだった。
「たすくくん……ど、どうかした……?」
本当に俺を心配してくれてる。世間体でも建前でもない、本物の生きた目で俺の目をのぞき込む。
手にした味噌汁に、ぽたり、と波紋が広がった。
俺の、今までは、なんだったんだろう。一体、なんだったんだろう。
隣で、薫が、味噌汁をずっとすすった。
俺も薫の真似をして、わざと音を立ててすすってみた。
「おいっ……しい……」
「そっか」
きらたんサンは、にっこりと笑った。
優しくてあったかくて綺麗な笑顔を見た瞬間、こらえていたぐずぐずしたものが、ぶわっと湧き上がってきた。
ちゃんと喋ることができたかわからない。でも、頭の中でぐるぐる回る映像を、なんとか言葉にしようとした。
薫は黙って聞いてた。
きらたんサンは、箸を置いて、俺の頭に手を伸ばした。
「よしよし」って、なんどもなんども俺の頭を撫でた。
なんどもなんども。
ぐるぐるぐるぐるあの光景がめぐる頭を、優しく。
なんどもなんども。
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