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「ん」
きらたんサンが皿洗いをしている後ろで、薫が俺に電話を押し付けた。
びくりとしただけで、戸惑ってると、薫が静かに言った。
「……ウチの数少ないルールなんだよ。『叱られる勇気がないやつは泊めない』」
勇気。
「とりあえず、言いたいことぶちまけろよ。したら、うちのババアがなんとかする」
すかさずオタマが飛んできた。
「ババアって一体誰のことだコラア!」
「テメエ以外誰がいんだよ、クソババア!」
薫は、一層強く電話を俺の肩に押し付けて、
「風呂行ってくる」
ひとこと告げて、電話をはなした。落ちる電話を慌てて捕まえる。
誰に電話すればいいっていうんだ。
電話を見つめていると、蛇口を捻る音が聞こえ、水音が止まった。
「やるときゃ、やんねえとな。男も女も大人も子供も」きらたんサンは、手をふきながら振り向いて、ニヤリと笑った。「同じ世の中に生きてんだ。誰にだって権利はあるはずだぜ」
誰に。
「あたしも薫もたすく君の味方だよ。アンタがどんな大悪党になろうと、絶対に味方になってやる。だから……」
きらたんサンは、俺の手の中にある電話に視線を落とした。
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