鬼才と謳われた少年

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 俺は殺されはしない。こうして死ぬほど痛め付けられはしても。跡目だから。  しかし、この男は違う。父上の意にそむけば――殺される。確実に。 「皇蔵様……」  ビチン。  俺は歯を食いしばる。耐えなくてはならない。気絶してはいけない。  理由は単純。痛みに耐える修業だから。  これは、まだ俺が皇蔵と呼ばれていた頃の話。 ―*―*―*―*―  「皇蔵様」  4つかそこらだったと思う。記憶が掠れているから定かではない。  襖の向こうから男が俺を呼んだ。俺は手にしていた、この島の歴史について纏めた文献を畳の上に伏せる。 「入れ」  俺が部屋の中から声をかけると、襖が開いた。 「皇蔵様、時間でございます」   男は、片膝を廊下について、顔を床に向けていた。そして、淡々と決められた言葉を口にする。無表情のまま。  
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