序 忘れられぬあの日

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俺は寒さで目を覚ました。どうやら座りながら眠ってしまったようだ。時刻は外の暗さからして7時ぐらいだろう……。   「雪……か……」   窓の外を見ると白い雪がちらほらと降っていた。   「初雪……。もう冬なんだな……」   雪は嫌いだ。冬はもっと嫌いだ。あの日の事を嫌でも思い出してしまう……。 窓ガラスに移った自分の顔が目に入る。 ガンッ!! 思いっきり殴ってやった。   「なんて顔してんだよ……」   冬は嫌いだ……。だが自分はもっと嫌いだ。 殴った右手がズキズキと痛む。   「…………。馬鹿だな、俺は……。何がしたかったのやら……」   俺は引き出しを開けて、いつもの物を取り出す。 日記……。趣味をほとんど持たない俺が日課としているものだ。 ページを一枚めくった。そこには不格好な俺の字が三行ほど並んでいた。     ―11月2日― 寒い。 腹が減った。 だからカップ麺を食った。   ―11月3日― 寒い。 灯油が切れた。 だから歩いて買いに行った。   ―11月4日― 寒い。 カップ麺が切れた。 面倒だから晩飯は抜き。     事実、こんなのやめてしまっても何の問題もない。むしろ、ノート代の分だけ得だ。 俺は本棚に並べてある30冊程度のノートに目を運んだ。あの日から毎日欠かさず書いている日記だ。   「やめるワケないだろ……」   この日記は楽しむためのモノじゃない。これは……俺の生き甲斐を見失わないようにするためのアイテムだ。 俺は昨日書いたページまでめくった。そしていつも使っているペンを持ち、ノートの上で走らせたのだった。
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