第一章~曹丕と甄氏~

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一夜明けた朝、曹操の兵が甄氏と劉氏のいる館に踏み込んで来た。 兵士の足音がして、殺されるに違いないと恐怖した甄氏は、死を覚悟して座っている劉氏の膝に頭を埋めて、しゃがんで震えていた。 やがて彼女達の部屋にやって来た将は、曹操の息子の曹丕〈ソウヒ〉であった。 この時まだ十九才の若者である。 八才にして優れた文書を書けたというから、才気溢れる人物だったようである。 また武芸にも優れていため、曹操の軍に参加していたのである。 血気はやる兵士達を制して、彼は言った。 「あなたが袁紹殿の妻、劉夫人ですか」 劉氏はすでに観念していたので、無言で頷いた。 曹丕は続けて言った。 「そこにうずくまっているのは誰ですか」 劉氏は言った。 「せがれの顕突(袁熙の字)の嫁でございます」 曹丕は頷いて、劉氏に甄氏の顔を上げさせた。 甄氏は恐れながらも、姑に促されて顔を上げて、面を曹丕に向けた。
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