第一章~曹丕と甄氏~

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「父上、お呼びでしょうか」 現れた曹丕の表情は、晴れないでいるようだった。 曹操は頷いた。 「もう少し待て。もうすぐ来るだろうからな」 曹丕は怪訝な顔をした。 「…誰か呼んでいるのですか?」 曹操は黙って頷いた。 やがて近侍の者が来訪を伝えると、曹操はすぐに通すように指示した。 現れた人物を何気なく見て、曹丕は驚いた。 「なっ…あっ…」 曹丕は思わず動揺して、父とその女性・甄氏を交互に見ながら、絶句してしまった。 「父上、これは…」 「お前の考えてる事などお見通しだ。わしが気付かぬと思ったか」 「はっ…いえ…」 曹丕の額に、汗が吹き出るように浮かんだ。 曹操は甄氏の方を見て言った。 「わしの息子がそなたを好いているらしい。そこで、そなたにこの子桓に仕えてもらいたいのだ」 甄氏は戸惑いを隠せなかった。 自分の夫である袁熙はまだ存命している。 それにも関わらず、曹丕の妻となれと言う。 本心を言えば、承知出来る話ではない。
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