第一章~曹丕と甄氏~

9/9
前へ
/223ページ
次へ
しかし、これは軽々しく返答出来る話では無かった。 自分の一言によって、一族や姑にまで害が及ぶ可能性もあるのである。 まして、自分のお腹にはもう一つの命がある。 幸い、まだ懐妊初期のため、気付かれた様子はない。 甄氏は結局、了承するしか無かったのである。 曹丕はこの話に大喜びして、何度も父の曹操に礼をとって感謝の意を示したのである。 やがて、甄氏の懐妊が明らかになると、今度は曹操が喜んだ。 「これはめでたい。妻となって早速に子を授かるとは。子宝に恵まれる事こそ、一族の繁栄に繋がるのだ」 一部の間では、あまりに早過ぎる懐妊に疑問を持つ者もいたが、曹操の言葉を聞くと、もはやそれを口にする者は居なくなった。 この年、建安十年(205年)、甄氏は男子を出産する。 曹操・曹丕をはじめ、たくさんの人々が、嫡子誕生に喜びの声をあげた。 甄氏はその様子を見ながら思った。 (いくら父親が袁家の者だとしても、この子は曹家の嫡子。私が口をつぐめば、全てこの子のためになる…) この男子こそこの物語の主人公であり、後に魏の二代皇帝となる明帝・曹叡〈ソウエイ〉なのであった…
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

967人が本棚に入れています
本棚に追加