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…七月二十四日、宮中で養育している曹詢を秦王とし、曹芳を斉王とした。
(詢はどうも病気がちで身体が強くないようだな…。それに比べて芳は順調に育っている。いずれは太子を立てねばならないが、芳の方が良いのかも知れないな)
曹叡はふとそう考えて、久し振りに毛皇后のもとに足を運んだ。
「変わりないか」
毛皇后は微笑んだ。
「はい、皇子達は順調に成長しております。ご安心下さい」
「…そなたの事だ」
「えっ」
毛皇后は勘違いに気付き、顔を赤らめた。
「これは失礼致しました。わたしは変わりなく過ごしています」
曹叡はやや視線を外したまま頷いた。
二人の間に沈黙が続いた。
やがて曹叡が口を開いたとき、女の子が毛皇后のもとに走り寄って来た。
「母上っ」
それは斉公主であった。
この時十三才になっていた彼女は、明るく快活で、玉の様な瞳から「玉姫」と呼ばれ、女官からも慕われていた。
「これ、陛下の前ですよ」
斉公主は曹叡の方を見て微笑んだ。
「父上、お元気でしたか」
曹叡は微笑んで頷いた。
(幾人もの子を亡くし、朕の実子はこの娘だけになってしまったなぁ)
そう思うと我が子が愛しくなり、曹叡は斉公主を抱き上げた。
「しばらく見ないうちに大きくなったな」
斉公主は笑って頷き、その様子を毛皇后も微笑んで見ていたのだった。
二人の間は、この斉公主によって保たれていたのである。
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