第二十章~時流~

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…ある日、曹叡は今は亡き曹真を思い出して、武衛将軍の曹爽〈ソウソウ〉を呼んだ。 彼は字を昭伯といい、曹真の長男である。 若い頃から謹厳で重厚な性格であったために、まだ即位する前の曹叡から、皇室の期待をかけられていた。 曹叡は曹爽がやって来ると、一礼する彼に言った。 「今、君の父の事を思い出していたのだ」 「父の事を…」 「元侯(曹真の諡号)は忠義を踏み行い、二祖(曹操・曹丕)建国の大業を助け、内に対しては寵遇を鼻にかけず、外に対しては寒門(有力な家でない)出身の士人に思い上がった態度を取らなかった。よく最高の地位を維持し、努力と謙虚さをその生き方としていたといって良いだろう」 「はっ…」 曹叡は天を仰ぎ、やがて曹爽に言った。 「君は皇室の一員としてその後を継ぎ、威厳を備えているのは良く分かっている。朕もいつか君に機会を与える時が来るだろう。それまでは決しておごらず、父を見習って自らを鍛えなければならないぞ」 「陛下の言葉、しかと肝に命じます」 やがて曹爽が退出すると、曹叡はため息をついた。 (彼がもっと自ら学び才覚を発揮すれば良いのだが…) 曹叡は今一つ彼に物足りなさを感じていた。 (まぁ焦る事も無いな。実戦を積ませればやがて大軍を指揮する事も出来よう) そう思って不満を打ち消すように首を軽く振り、またため息をつくのだった…
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