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…心の拠り所を求めていた曹叡だったが、毛皇后との仲が徐々に冷えて来ると、郭夫人のもとに足を運ぶ回数が多くなった。
彼女としても元々は身分が低く、拠り所とするのは皇帝である曹叡しかいなかった。
彼が来ると、郭夫人はいつも喜びに満ち溢れた表情を浮かべた。
「陛下、良くお越し下さいました」
曹叡は苦笑いを浮かべた。
「朕は客では無い。そなたは朕の妻の一人ではないか。謙虚なのは良い事だが、そろそろ慣れた方がいいな。それに…」
「…それに?」
「朕も落ち着かぬ」
郭夫人は微笑んだ。
「これは私の配慮が足り無い様でした。以後は気をつけましょう」
曹叡は頷いた。
「亡くなった娘の平原懿公主(郭夫人との子)の事を思い出すと、今でも心が痛む。そなたの笑顔が、日頃の朕の悩みを和らげてくれるのだ」
「もったいないお言葉です。わたしも陛下以外に頼るべき方はおりません。わたしをお見捨てなきように…」
「案ずるな。朕にはそなたが必要なのだから…」
「陛下…」
郭夫人は思わず涙ぐんだ。
曹叡は言った。
「その様に泣くのはよすのだ。さぁ、酒をついでくれぬか」
郭夫人は涙をふいて杯き酒を注ぐのだった。
こうした寵愛の移り変わりは、男女の間では仕方の無い事なのかもしれない。
しかし自分が若い頃に憎んだ父の行動と、まさに同じ道を歩いていた事に、心の均衡を崩した曹叡は気付かなかったのだった…
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