第二十章~時流~

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…青龍四年(236年)十二月、病の床にあった司徒の陳羣の病状が悪化したという知らせを受け、曹叡は自ら足を運んで見舞った。 曹叡の姿を見ると、彼は寝台から無理に体を起こそうとした。 「良い、そのままでいるのだ」 「陛下…」 見るからにやつれた姿に、曹叡は胸が痛んだ。 「具合は大丈夫か」 「…どうやら臣も元侯(曹真)、壮侯(曹休)と共に、二祖陛下に会う日が近付いたようです…」 「何を弱気な事を…。朕の周囲から皆去るばかりでは無いか。君は生き続け、朕を輔佐してくれ」 陳羣の頬を、一筋の涙が伝った。 「有り難きお言葉…。臣の子の玄伯(陳泰)は散騎侍郎の地位にあり、我が子ながら優れた点があります。臣の後を継がせても何の支障もありませぬ…」 「…分かった、分かったぞ…」 「陛下…」 陳羣は話し続けようと息を吸い込んだ。 「太尉(司馬懿)は優れた人物ですが、諸刃の剣のような方です。陛下にとって武器にも害にもなりましょう。どうか彼の扱いにはご注意下さい…」 「その言葉、心に止めよう」 「…どうか民を労り、賊徒を誅滅して国を統一して下さいませ…」 曹叡もまた涙を流し、何度も、何度も頷いたのだった… …十二月二十四日、司徒の陳羣はこの世を去った。 文帝(曹丕)が後を託した四人のうち、これで三人が亡くなった事になる。 ただ一人となった司馬懿の存在は、益々大きくなるばかりだった…
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