第二章~母の死~

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…建安二十五年(220年)、曹叡をかわいがってきた、魏王である祖父の曹操が亡くなり、父の曹丕が後を継いだ。 曹叡はこの時、武徳侯の爵位に封じられている。 曹叡はその事を、母の甄夫人にも報告した。 彼女は微笑んで言った。 「それはおめでとうございます。あなたの努力を、王がお認めになったのですよ」 曹叡は嬉しそうに頷いた。 彼にとって、母に褒められるのは何よりも喜ばしい事なのである。 「しかし母上、二人の時くらいは、その他人行儀な話し方をしなくても良いのではないでしょうか」 甄夫人は首を横に振った。 「いいえ、いつ誰が聞いているやも知れません。あなたも侯となった身なのですから、物の言い様にも気をつけてなくてはなりませんよ」 「分かりました、母上」 いつか、「母さん」と呼べる日が来ないだろうか… 曹叡は心の中で願ったが、叶う事も無いことを、彼自身が一番良く分かっていた。 宮中での平穏無事な日々。 何気ないそんなことが、彼には貴重なものに思えたのである…
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