第二章~母の死~

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…この年の六月、魏王である曹丕は江南の孫権を討つべく、南方に親征した。 甄夫人は昔暮らしていた都市ギョウで、留守を預かる事になった。 (この街も、昔と随分変わった) 一度壊れた街は、より機能的に修復された。 もはや、甄夫人の知る街では無かったのである。 彼女はしばらく感慨にふけっていた。 曹丕の留守中、一人の客人が訪れた。 曹丕の弟で、文才に優れた曹植〈ソウショク〉である。 彼はその優れた才で、曹操も一時は後継者に、と考えた時期がある。 しかし、結局は兄弟の順を変えようとして失敗した、袁紹や劉表となる事を恐れて、曹丕を太子としたのである。 甄夫人は時間を持て余していたので、曹植と席を設けて話す事にした。 曹植は礼をとって言った。 「ご無沙汰しております、義姉上」 甄夫人は頷いた。 「子建(曹植の字)どのも元気そうですね」 聞けば、公務で近くを通ったので、挨拶に寄ったのだという。 それからしばらく、二人は曹叡の話など、他愛もない世間話をしたのだった。 何でも無いある日常の事であったが、これが悲劇を招くとは、いかに賢明な甄夫人にも分からなかったのである…
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