第二章~母の死~

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ある時、曹丕と話していた甄夫人は、思わず気持ちが高ぶって怨み言をこぼしてしまった。 曹丕は激怒した。 「そなたは、わしに説教しようというのかっ?!」 甄夫人はハッとして謝罪した。 「陛下、とんでもないご無礼を致しました…どうかお許し下さいまし」 曹丕は怒り収まらず言った。 「いいや許せぬ!そなたが、いつもどのような心構えでいたかよく分かったぞ」 甄夫人は礼をとって涙を流した。 曹丕には、前年の留守中に、かつての政敵であった曹植と会っていた事を聞いてから、密かに怒りを感じていたのである。 それは、嫉妬の気持ちであったかもしれない。 かくして、甄夫人は自害を命じられたのであった… …知らせを聞いた曹叡は、持っていた書物を放り投げて母の元に向かった。 そこには、すでに冷たくなった甄夫人の遺体が横たわっていた。 「母上…!」 曹叡は手を震わせながら、母の身体に腕を伸ばした。 近侍の者が言った。 「元仲様、お母君は罪をもって死を賜りました…その死を嘆くのは、陛下の心証も良くないかと」 曹叡は涙を流しながら、キッと向いて言った。 「お前は自分の母親が死んでも、そのように冷静でいるのかっ!」 近侍の者は恥じ入って黙り、曹叡は泣き崩れて、しばらくその場を動けなかったのである…
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