第三章~皇太子~

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郭皇后は女性ながら、優れた智恵を持つ人物であった。 そもそも、曹叡の父である曹丕が曹操の後継者となったのも、彼女の画策が功を奏したのが、決定の大事な要素の一つとなったほどである。 また過去の歴史を振り返って、地位を利用して一族を繁栄させれば必ずおごりが生まれ、やがて滅びる事になると言って、常に慎重に行動するように、親族に言っていた。 かつて、郭皇后は曹叡の母の甄夫人の存在を快く思っていなかった。 その死に際して、曹叡が甄夫人の遺体の側を離れると、人に命じてその口に、ぬかを詰め込ませ、髪を乱して顔を隠してしまった。 さらに周囲の者に口止めをして、他言を禁じた。 甄夫人は皇族として、柩に収める儀式も受ける事が出来なかったから、その光景はとても痛ましいものであった。 まことに、嫉妬心という物は人の心を狂わせるものである。 暫くたって後悔した郭皇后は、罪人と共に埋葬されそうな甄夫人の遺体を引き取り、人知れず宮中の一画に埋めて、その命日には、必ず花を手ずから供えたのだった…
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