第三章~皇太子~

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ある時、自分が住む東宮殿の庭を、気晴しに一人散歩していると、前から走ってくる者がいた。 近くなると、どうやら女官らしい事がわかる。 曹叡は、ふと気になって呼び止めた。 「宮中とは、余程の事が無い限りは走り回るものではない。まして、女官たる者が主人の住まいの庭を走り回るとは…」 その女官は慌ててお辞儀をした。 「こ、これは平原王様、申し訳ございませんっ」 「どこの者だ?」 「はいっ、この東宮殿の女官でございます」 顔を上げれば、まだ若い女官であった。 恐らくは、曹叡と同じ位の年では無いだろうか。 (なかなか可愛らしい顔立ちをしてるな) 曹叡はそう思って、名前を尋ねた。 「はい、女官の毛姜〈モウキョウ〉と申します」 毛姜は上気したように、頬は赤みを帯びていた。 無理からぬ事である。 曹叡は美少年として東宮では有名だったからである。 一介の女官ともなれば、滅多に話す機会さえないものである。
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