第三章~皇太子~

6/8
前へ
/223ページ
次へ
曹叡は話している内に、その純朴で擦れていない所に興味を覚えて、彼女がその場を去った後も彼女の事を覚えていた。 元々、虞氏に対して、あまり好意的に接する事が出来なく、さらに郭皇后に気を使わなくてはいけなかった曹叡は、心のどこかで癒しを求めていた。 彼はやがて暇を見つけては彼女を呼んで話をして、やがて側に置いて、移動の時には馬車に毛姜を共に乗せるようになった。 「ほぅ、毛姜の弟は馬車を作る職人なのか」 毛姜は恥かしそうに言った。 「はい。あまり学も無い弟ですが、手先は器用な方なので…」 曹叡は毛姜の話を、いつも楽しそうに聞いていた。 この宮中では接する事の無いような、民の姿がそこにあった。 (そうだな。皆、一人一人がわたしと同じように物事を考えて、生きておるのだ) 曹叡には、このように身内の事を考えるよりも、臣や民を大事にする方が良いと考えるところがあった。 彼にはこのように物事を柔軟に、的確に捉えるという才が備わっていた。 宮中の狭い世界を、あまり好んでいなかったのかもしれない。 それは、間違いなく母の死が与えた影響なのである…
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

967人が本棚に入れています
本棚に追加