序章・生まれた意志

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その少年は人として破綻していた。 周囲の人間からすれば、普通にしか見えなかっただろう。 だが彼には人の、いや生き物全ての根底にあるべきものが欠落していた。 自身が生きている実感。それが彼には無かった。 自分という存在が確固たるものだと、彼には思えなかったのだ。 まるで幽霊だ、と誰かが言った。 意思がありながら世界から外れた存在。 それは存在が希薄と言っていいだろう。事実、彼の心は空っぽで、まるでハリボテの人形だった。 幼少時代、少年は生まれもっての欠陥品として生きた。 それは地獄の日々だった。何せ自分が今、生きているのか死んでいるのかが分からないのだ。 育つに連れ萎縮する精神。自傷行為は日常茶飯事。 気が付けば手首にナイフを押し当てている日常など、常人には理解できまい。 瞳は活力と輝きを失い、四肢は次第に動かなくなった。 だが彼には恐怖はなかった。 もとより生の実感が無い彼は、すでに死んでいるも同然だ。このまま衰弱死しようと何も変わらない。 見かねた家族は彼を"治療"しようと努力した。
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