4304人が本棚に入れています
本棚に追加
/341ページ
その少年は人として破綻していた。
周囲の人間からすれば、普通にしか見えなかっただろう。
だが彼には人の、いや生き物全ての根底にあるべきものが欠落していた。
自身が生きている実感。それが彼には無かった。
自分という存在が確固たるものだと、彼には思えなかったのだ。
まるで幽霊だ、と誰かが言った。
意思がありながら世界から外れた存在。
それは存在が希薄と言っていいだろう。事実、彼の心は空っぽで、まるでハリボテの人形だった。
幼少時代、少年は生まれもっての欠陥品として生きた。
それは地獄の日々だった。何せ自分が今、生きているのか死んでいるのかが分からないのだ。
育つに連れ萎縮する精神。自傷行為は日常茶飯事。
気が付けば手首にナイフを押し当てている日常など、常人には理解できまい。
瞳は活力と輝きを失い、四肢は次第に動かなくなった。
だが彼には恐怖はなかった。
もとより生の実感が無い彼は、すでに死んでいるも同然だ。このまま衰弱死しようと何も変わらない。
見かねた家族は彼を"治療"しようと努力した。
最初のコメントを投稿しよう!