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昨今、小綺麗なリサイクルショップと名の付く店が需要を高める中、その古物屋は、古色然とした風合いを残したまま、そこに佇んでいた。
薄汚れた看板は、しかし、一枚板で削り出されたであろう威風堂々とした存在感を示し、訪れる者を威圧するかの如く、入り口の上部に胡座をかいている。
そして、その表面に彫られた文字。
『黒猫堂本舗』
その名を誇張するかのように、入り口の脇には黒猫が寝そべっていた。
ただ、真っ黒ではなく、右の耳だけは色を塗り忘れたかのように真っ白だ。
その猫は、私の視線を感じたのか、顔を上げるとこちらに金色に光る瞳を向けてきた。
私は、その瞳に射抜かれ、動けなくなる。
全てを見透かされている。――そう感じる程、深く視線が入ってくる。
しかし黒猫は、ふぃっと視線を外すと、薄く開けられた引き戸を摺り抜け、『黒猫堂本舗』の屋内に姿を消したのだった。
その引き戸には、日に焼けて黄ばんだ紙が貼られている。何か書かれているようだが、遠目では何も判らない。
私はよく読もうと近付いた。
『古物取り扱い。
何でも買い取りいたします。』
古物……。
私は、入り口付近に置かれている【古物】に目をやる。
私の目には、それらは【がらくた】にしか映らなかった。
私は、その貼り紙と、自分の手元にある一枚の紙とを見比べながら、躊躇していた。
私の手には、
『黒猫堂本舗―万相談承リマス―』
と書かれたチラシがある。
そして、さらにこう書き連ねられている。
『人外の訪問、怪異にお困りの方。
その他、理解し難い現象にお悩みの方。
ご相談承ります。』
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