古物屋

2/6
前へ
/25ページ
次へ
昨今、小綺麗なリサイクルショップと名の付く店が需要を高める中、その古物屋は、古色然とした風合いを残したまま、そこに佇んでいた。 薄汚れた看板は、しかし、一枚板で削り出されたであろう威風堂々とした存在感を示し、訪れる者を威圧するかの如く、入り口の上部に胡座をかいている。 そして、その表面に彫られた文字。 『黒猫堂本舗』 その名を誇張するかのように、入り口の脇には黒猫が寝そべっていた。 ただ、真っ黒ではなく、右の耳だけは色を塗り忘れたかのように真っ白だ。 その猫は、私の視線を感じたのか、顔を上げるとこちらに金色に光る瞳を向けてきた。 私は、その瞳に射抜かれ、動けなくなる。 全てを見透かされている。――そう感じる程、深く視線が入ってくる。 しかし黒猫は、ふぃっと視線を外すと、薄く開けられた引き戸を摺り抜け、『黒猫堂本舗』の屋内に姿を消したのだった。 その引き戸には、日に焼けて黄ばんだ紙が貼られている。何か書かれているようだが、遠目では何も判らない。 私はよく読もうと近付いた。 『古物取り扱い。 何でも買い取りいたします。』 古物……。 私は、入り口付近に置かれている【古物】に目をやる。 私の目には、それらは【がらくた】にしか映らなかった。 私は、その貼り紙と、自分の手元にある一枚の紙とを見比べながら、躊躇していた。 私の手には、 『黒猫堂本舗―万相談承リマス―』 と書かれたチラシがある。 そして、さらにこう書き連ねられている。 『人外の訪問、怪異にお困りの方。 その他、理解し難い現象にお悩みの方。 ご相談承ります。』
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加