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ガラリ。
突然、私の目の前で、『黒猫堂本舗』の引き戸が開けられた。
私は驚いて、視線をチラシから正面へと移す。
そこには、いかにも、といった風体の、黒い着流しを来た男が立っていた。
歳の頃は27、8だろうか。
落ち着いた雰囲気を醸し出し、全体的にもっと年配の、私よりもずっと年上であるような印象を受ける。
顔は、男の私でも惚れ惚れする程の美形だ。ただ、その瞳はとても冷たい。
肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪は、まるで先程の猫が人に化けたかのように、真っ白い髪が一房、右側にある。
彼は私の姿を認めると、脇に一歩譲り、戸をくぐるように促した。
そうされると私も入らざるを得ない。
意を決して、『黒猫堂本舗』の店内へと足を踏み入れたのだった。
薄暗い店内に入ると、ひんやりとした空気が頬を撫でる。
真夏の陽射しを浴びていたからだろうか。
エアコン等といった近代的なものが設置されている様子は無いが、とても涼しく感じる。
そして、光の届かぬ部屋の隅や、棚の陰からは、こちらを伺う無数の眼が……いや、それは私の妄想だろう。
頭を振って、その妖しく瞬く眼の幻想を追い払う。
しかし、追い払っても尚、感じる視線。
私は、その視線を追うように、薄暗がりの更に奥へと目を凝らしてみた。
そして、そこに座っている人影と、目が合うのを感じたのだった。
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