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後ろで戸が閉められるのを感じる。
私の背後から差し込んできていた光と、蒸せ返るような暑い外気が遮断される。途端に、室内は孤立した一つの空間と化した。
私は外の世界とは切り離された、異質な空間に一人取り残されたような感覚に陥る。
振り返ると、先程の男が戸を閉めていた。
その足元を、あの猫がするり、と摺り抜ける。
私は、猫が男に化けた、等という馬鹿馬鹿しい想像をした自分に内心苦笑いを浮かべながら、店の奥に視線を戻した。
そこに座る人物は、今は何か他の事をしているのだろう。その視線を感じる事は無かった。
「にゃああああご」
その声に、猫の方へ目をやると、私を見つめる金色の瞳とぶつかる。
その瞳は、私を急かしているようにも感じて、私の足を奥に向けさせるには十分なものだった。
猫の後に尾いて、棚から溢れ出した【古物】に注意しながら、その人物の方へと近付いていく。
一歩足を踏み入れる毎に、外界から遠ざかり、深みにはまっているような、そんな感覚を伴いながら……。
その人物は、古ぼけた木の机に肘をついて、本を読んでいた。その脇に、あの猫が跳び乗る。
読書に没頭しているのだろう。私がすぐ側に立っても、顔を上げる様子が無い。
その横で、猫は毛繕いを始めた。
私はその様子を見ながら、声をかけるかどうか躊躇う。
そして、見るとも無く、その人物の様子を観察するのだった。
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