古物屋

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艶の無い、白髪混じりの髪は肩で、前髪は眉の辺りで揃えられており、お河童頭になっている。 肌も艶は無く、歳はもう老年に差し掛かっているだろうと思われる。 目は分厚い眼鏡で隠されていて、その表情を伺い知る事は出来なかった。 身長は、机に隠れている部分が余程長くない限り、かなり小さいだろう。 まるで、干からびた河童だな、と失礼な事を考える。 「なぉんっ」 呼び掛けるように猫が鳴く。それに呼応するように、店主だと思われるその人物は、顔を上げた。 そして、その体に見合った甲高い声で話し始める。 「おやおや、先生。お客さんを呼んできてくれたんですか。まだまだこちらには来ないと思ってましたよ」 これは私に向かっての言葉では無い。猫に話し掛けているようだ。 猫の名前に『先生』とは面白いものだな。 そう思っていると、店主はぐるりと私の方へ頭を回した。 私は少し驚いて、体がびくんとなってしまう。 「『先生』は彼の愛称ですよ。心配しなくても、名前はきちんとありますから」 私は今喋っただろうか? 「喋ったようには見えませんねぇ」 そして彼は意地悪く、にたにたと笑う。 その横で、猫も笑ったように見えた。その顔が入り口に立つ男の顔と被る。 一体、私はどうしたんだ? 「さあ、どうしたんでしょうかねぇ」 目が廻るような感覚。 空気が歪む。 平衡感覚が無くなる。 浮かびながら沈んでいく。 回りながら止まっている。 遠ざかって近付いて。 にたにた、にたにた。 「大丈夫ですか?」 にたにた、にたにた。 「お客さん、お客さん。聞こえてます?」 にたにた、にたにた。 「にゃああああああああご」 ぱちんっ。 風船が割れたような感覚。 一気に感覚が戻ってくる。私は元の場所に立っていた。 目の前では、にたにたと意地悪な笑いを浮かべたままの店主と、澄ました顔の猫が、変わらずそこに居るのだった。
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