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少年が走っている。まだ小学校低学年くらいだろうか?
漆黒の髪に強い意思を宿した黒い瞳は、しかし、子供らしさを欠いているようにも見える。
彼は、平家建ての古い建物の前で立ち止まった。
足元にはガラクタが転がっており、お世辞にも綺麗な建物とは言えない。しかし、古色然とした佇まいは、そこに散らばるガラクタや少年を温かく見守っているかのようだった。
少年は辺りを伺い、何か気になる事があるのか、少し頭を傾げた。そして、『黒猫堂本舗』と書かれた看板の下の引き戸を勢い良く開く。
「こんちはー!!」
元気な声が響く。その声は、やはり少年のものだ。
「にゃあんっ」
「おやおや、いらっしゃい」
猫の鳴き声と甲高い声が、それに答える。
「ねぇ、悟浄おじさん。またなんか悪さしたぁ?」
少年は辺りを見回しながら奥へと歩を進めると、そこに座っている人物に尋ねた。
「何もしてませんよ。また、だなんて人聞きの悪い」
悟浄おじさんと呼ばれた人物は、にこりと優しい笑顔を浮かべながら答える。ただ、その様子は少し白々しく感じられた。
少年は、それを訝るような目で見つめる。しかし、
「ま、いいや。それより河太郎いる?」
すぐに興味を無くすと、別の話題を振る。
「もうすぐ帰ってくると思いますよ」
「いつものとこ?」
「みたいですねぇ」
少年は、『しょうがないなぁ』と呟くと、悟浄の座る勘定場の後ろに回った。
そこは、自宅を店舗にしている家によく見られる、自宅への上がり口のようだった。一段高くなっており、向こう側と店舗を遮る戸は、今は開かれている。
しかし、昼間だというのに向こう側は暗闇に覆われており、何も見えない。
だが、そんな事は気にならないのか、少年はそこに土足のまま足をかけた。
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