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村を出てから1時間弱。
狩りの拠点、ベースキャンプに到着した。
「ほらよ、着いたぞ・・・っと、先客がいる」
ベースキャンプの裏手に馬車を停めようとしたシュウは、既に停めてあった馬車を見つけて言った。
「お待ちしていました。カズさんですね」
その時、ベースキャンプの中からこの場には似合わない執事服の男が出てきた。
髪は鉄灰色、瞳は黒、口髭に少し皺のある顔立ち。
どこからどう見ても執事だ。
それも結構偉い感じの。
男がこちらの名前を知っているということは依頼人なのだろう。
「そうですけど。何かあったんですか?」
依頼人が狩場に来ることなどまずないはずだ。
カズがそう聞くと執事服の男は深刻な顔をして答えた。
「2つほど。1つ目は依頼書にも書いていましたが、群れの中にドスファンゴの姿が確認されたのです。2つ目は」
男はそこで声を一度切る。
こちらの情報のほうが大事だ、心して聞けよ、とでも言うかのように。
「付近で飛竜、それも上位クラスの飛竜が目撃されました」
「えっ!?」
「うそだろ!?」
男の言葉にカズだけでなく後ろにいたシュウも驚きの声を上げる。
無理もない。
上位クラスの飛竜というのはそうそう出るものではないのだから。
上位クラスとは、ある程度狩りをこなして腕を認められた者だけが挑むことの出来る依頼で、上位クラスの飛竜ともなれば桁違いに強い。
「確かな情報ではないのですが・・・何分かなり危険な話ですので」
驚きを隠せないカズとシュウに男は続ける。
「そこで、この場所で依頼を放棄するかどうかを決断していただきます」
依頼の放棄。
男は確かに、厳格な雰囲気でそう言った。
「放棄?依頼の?」
カズはよく分からないといった顔で聞き返す。
まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったのだ。
だが、男の雰囲気からしてそれが冗談のはずがない。
「はい。ただしこのような状況ですので、契約金はお返しいたします」
どうするのか。
男はその黒い瞳でカズに問いかける。
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