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「バース?朝よ、起きて」
可愛い声で僕を揺らすのは、恋人のマリアだった。
3年程前から一緒に暮らしている。
光に慣れない目を細め、朝日を浴びて眩ゆく見える彼女に視線を送れば、色素の薄い金色の髪が目の前を通りすぎた。
しかし気分が優れない僕は、先ほどまで脳裏に浮かんでいたはずの映像を反芻しようと眉を顰(シカ)める。
いつも見ている夢だった。
恐ろしくも切ない…
詳しくは……覚えてはいないけど。
マリアは窓際に立ち、僕の表情に気付いて可憐な笑顔を向ける。
乾いた音を出して窓は開け放たれた。
「なぁに?朝からそんな怖い顔、バースらしくないわ」
元気付けようと明るく振舞う姿がまた、愛おしく感じる。
「さぁ、今日はどんな命を描いてくれるのかしら?」
「……今日は…司祭のガーストンさんの教会に…養女の娘さんが…誕生日だからって頼まれたんだ」
覚えてもいないような夢だ。
大した事は無いだろうと、僕はまだ半分寝ている状態でマリアに応えた。
キッチンからは、パンの焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
レンガ造りの簡素な家に充満する幸せの香りが、僕の悪夢を忘れさせてくれた。
最高の目覚めだった。
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