招待状

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コトコトと鍋の蓋が鳴く。 美味しそうに焼けたパンが、既にテーブルへ運ばれていて、口に運ばれるのを今か今かと待ち構えている。 幸せを噛み締めていると、マリアが鍋を気にしながら、湯気の上がるスープを運んでくる姿が目に留まった。 「こら、危ないよ」 彼女の手からスープ皿を取り上げて言うと、お礼を言いながら頬に口付けをされた。 「そういうところ、好きよ」 思わぬ告白に顔が高潮する。 もう三年も一緒に暮らしているというのに、全く慣れない。 好きすぎて、困る。 僕が照れている間に、マリアは心配していた鍋の近くに戻っていた。 「腹へったな…」 頬を赤く染めながら、何事も無いように言う僕の呟きを聞いて、マリアは微笑みながら振り向いた。 「ふふ、もう少し待っててくれる?」 「じゃ…じゃあ先にポストを見てくるよ」 その言葉を聞くとマリアは僕に笑顔を向け、音を鳴らす鍋に視線を戻した。 鼻歌を歌いながら玄関に向かい 、外の空気を吸い込んだ。 頬にさっきの感触が残っていて、思わずまた赤面する。 「毎日こんなんじゃ心臓がもたないよ…」 くしゃくしゃと頭を掻き、ポストの前でしゃがみこんだ。 風が吹きつけ、火照っていた体が冷めていく。 マリアの笑顔を思い出し、 「腹減ったしな」 と呟いて言い訳をしながら、愛する恋人の笑顔を見るために立ち上がった。 何の変哲も無い、いつもの朝の光景だった。 そう、思っていた。 しかしポストの中身は、僕にいつもの朝を許さなかった。 いつも入っている新聞と、たまに入っている依頼の手紙を手に取る。 「また、物の値段が上がるのか…絵を描くだけじゃ暮らして行けなくなるかもしれないな…」 新聞の見出しに独り言を落としながらポストを閉めようとした時、目の端に取り残された郵便物を見付けた。 いつもの朝には見た事が無い手紙が、恭(ウヤウヤ)しく置かれていた。
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